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人魚

1.マーメイドとマーマン

2.半人半魚の系譜

3.人魚を形作る要素 その1

4.人魚を形作る要素 その2

5.人魚を形作る要素 その3

6.人魚の標本

トリトン

1.マーメイドとマーマン

人魚とは、海中に住むと信じられた半人半魚の生物のこと。上半身が人間、下半身が魚という姿とされ、女の人魚をマーメイド、男の人魚をマーマンと呼ぶ。

マーメイドは、海上の岩場に腰をかけ、手に櫛と鏡をもって髪を梳かす、上半身裸の美しい女性として表現される。この姿はアンデルセンの『人魚姫』に登場する人魚の娘などに繋がっていくものである。中世には男を誘惑する魔物のような存在とも考えられるようになり、よく酒場の看板に客引きの為に描かれるなどした。

またマーマンは、上半身が男性、下半身がマーメイド同様に魚の尾となっている。オアンネスやトリトン、ポセイドンといった海神たちはこのタイプである。

中世のキリスト教徒は、人魚は人間のような信仰や倫理を持たないと考えていた。中世から近世にかけて、浜辺に打ち上げられた人魚を見つけたら、キリスト教徒でないことを確かめ、十字架への祈りの仕方を教え、海中で布教せよと言って海へ帰した、という。

また、人魚が人間(と対等の存在)になるためには、地上の人間と結婚し、魂を譲り受けることが一つの方法と考えられた。

これらキリスト教の人魚観は、フケーの『ウンディーネ』やアンデルセンの『人魚姫』などにも影響を与えている。


オアンネス

2.半人半魚の系譜

人魚の原型を辿っていくと、古くは6〜7千年前のバビロニアで信仰されていた海の神オアンネスまで遡るという。

このオアンネスという神は、昼は陸上で過ごし、夜は海へ帰っていったと伝えられ、その姿は半人半魚として表された。オアンネスとその妻ダンキナとの間には魚の尾を持った子が6人生まれたと伝えられている。

またペリシテ人の神ダガンや、シリアの女神アタルガティスといった半人半魚の神々は、このオアンネスの流れを汲む存在ともいわれている。

このほか、ギリシア神話に登場する海神トリトンなども人魚そのものの姿である。


3.人魚を形作る要素 その1

人魚や精霊あるいは実在の海獣類など、海にまつわる話は互いに影響し合い、様々な説を生み出していったと考えられる。

北ヨーロッパでは、海中に住む人間や海から現れる人魚などの話が古くから語られてきた。これらにはアザラシの存在が大きな影響を与えたらしく、人魚の姿もしばしば「黒衣の修道女」などとして描かれている。

プリニウスの『博物誌』には海の精ネレイスのことが記されている。それによると、数百頭も群れて海辺に上がり、悲しげな声で歌う動物とされ、上半身まで毛が生えている点を除けば、伝説どおりに半人半魚の姿をしている、とある。ここでいわれる海の精ネレイスも、アザラシなどの海獣を指していると思われる。

このほか、ジュゴンやマナティーといった海の哺乳類も人魚のモデルになったといわれている。


4.人魚を形作る要素 その2

ホメロスの『オデュッセイア』にも登場するセイレーンは、現在の人魚のイメージに大きな影響を与えた存在である。

このギリシア神話の精霊は、その美しい歌声で船乗りを誘惑し、船を難破させてしまうといわれた。

セイレーンはもともと半人半鳥の女神だったが、詩の女神ムーサイ(ミューズ)との争いに負けて海に落ち、半身が魚に変化して海の精霊になったのだともいわれる。そしてその後もイタリア近海の島に暮らしながら、通りがかる船乗り達を海中に引きずり込んだ、という。

人魚の「誘惑する美しい女」という要素は、このセイレーンのイメージに負うところが大きい。

また、有名なライン川のローレライ伝説も、このセイレーンの話から生まれたものである。


 

5.人魚を形作る要素 その3

古くから伝わる人魚伝説の一つに、ケルトの「波間の少女」がある。

夏の満月の夜、ある若者は海辺で踊っている人魚たちに出くわし、その中にいた少女に恋をした。少女は下半身が魚のかたちで、髪がとても長く、美しかった。若者がその少女の衣を奪うと少女は海へ帰ることが出来なくなり、少女は若者の花嫁となった。

その後三人の子供も授かり幸せな生活を送っていた二人だったが、ある日、長男が人魚の衣を見つけてしまう。正体を子供に知られた母親は、泣く泣く海に帰っていった。

しかし子供が心配な母親は、その後も夜な夜な家へ忍んで来ては子供の寝顔を覗いていったという。

また、船乗りとなった子供が航海中に暴風に遭ったが、この母親が船を護ったので無事だったという。

日本の「天女の羽衣」にも通じる話だが、これも現在の人魚に繋がる原型のひとつである。

 

ジェニー・ハニヴァーの標本

6.人魚の標本

16世紀頃、博物学が盛んになると様々な怪物の捏造標本がヨーロッパに出回るようになった。ジェニー・ハニヴァーなる標本もそのうちの一つで、人魚の一種とされて好事家らに珍重されたが、実は魚のエイを加工したものであった。

18世紀になると、上半身が人間そっくりで下半身が魚という正に人魚のイメージそのものの標本がヨーロッパにやってくるようになった。この標本は日本や中国で造られた物だったが、そのあまりのリアルさにヨーロッパの人々は衝撃を受けたという。

この東洋からもたらされた標本の人気と反比例するように、ジェニー・ハニヴァーの人気は下火になっていったという。現在では土産物店などで細々と売られているそうである。