桜田門(さくらだもん)、もしくは本庁(ほんちょう)とも呼ばれる庁舎(ちょうしゃ)には警察庁(けいさつちょう)監督下(かんとくか)の警察官(けいさつかん)が24時間体制で皇居(こうきょ)の警護(けいご)の任(にん)に当たっている.
1976年7月15日の夕暮(ゆうぐ)れ、警視庁(けいしちょう)総合庁舎(そうごうちょうしゃ)の鑑識課(かんしきか)に勤務(きんむ)する ”渡辺良三”氏が皇居(こうきょ)に異常(いじょう)は無いか眺(なが)めていた.
異変(いへん)が有ったのは,午後6時30分過ぎごろの事だった.
夕焼(ゆうや)けの光(ひか)りが ほのかに残(のこ)る銀座(ぎんざ)上空(じょうくう)から,なにやら得体(えたい)の知(し)れない物体(ぶったい)が ゆらゆらと風(かぜ)に流(なが)されるように やって来る.
見たところ,風船(ふうせん)では なさそうである.
「あれは いったい なんだ!?」
見慣(みな)れない飛行物体(ひこうぶったい)を前(まえ)に,思(おも)わず ”渡辺”氏は声(こえ)に出(だ)した.
「なんですか ”渡辺”さん,UFOでも出(で)ましたか」
「ああ,確(たし)かに あれがUFOなら,UFOになるのかな」
異変(いへん)に気(き)づいた同僚(どうりょう)が近(ちか)づいてきて,彼(かれ)の視線(しせん)を追(お)うと,そこには確(たし)かに妙(みょう)なモノが浮(う)かんでいる.
「なんだアレは!?」
確(たし)かに異様(いよう)な物体(ぶったい)だった.
風船(ふうせん)やアドバルーンといった類(たぐ)いのモノではなかった.
人工物(じんこうぶつ)と言(い)うよりは,生物(せいぶつ)に近(ちか)い.
クラゲのように半透明(はんとうめい)で,ぐねぐねと動(うご)きながら,そいつは空中(くうちゅう)を漂(ただよ)いながら こっちに向(む)かってくる.
球形(きゅうけい)になったり細長(ほそなが)く伸(の)びたり,変幻自在(へんげんじざい)に蠢(うご)めく姿(すがた)は まさにイモ虫かアメーバーのようだった.
”渡辺”氏以下,同僚(どうりょう)7人が見守(みまも)るなか,怪物体(かいぶったい)は皇居(こうきょ)の上空(じょうくう)までやってくると,そこで大きく旋回(せんかい)し,あたかも最初(さいしょ)から皇居(こうきょ)が目標(もくひょう)であったかのように,今度(こんど)は徐々(じょじょ)に高度(こうど)を下(さ)げ,真(ま)ん中(なか)あたりから,いくつもの触覚(しょっかく)のようなモノを伸(の)ばし始(はじ)めた.
「あれは触覚(しょっかく)なのか,それとも腕(うで)かな」
あっけに取(と)られていると,半透明(はんとうめい)の無数(むすう)の細(ほそ)い触覚(しょっかく)のようなモノはクラゲの足(あし)のように地上(ちじょう)の皇居(こうきょ)に向(む)かって伸(の)びていった.
これが他国(たこく)の攻撃(こうげき)であったなら,非常事態(ひじょうじたい)間違(まちが)いなしなのだが,その光景(こうけい)は あまりにも現実離(げんじつばな)れしていて,警察官(けいさつかん)も あっけに取(と)られるばかりだった.
こうした状況(じょうきょう)を尻目(しりめ)に,謎(なぞ)の浮遊物体(ふゆうぶったい)は悠々(ゆうゆう)と皇居(こうきょ)上空(じょうくう)を旋回(せんかい)していたが.
しばらくして何(なに)か目的(もくてき)を達(たっ)したかのように高度(こうど)を上(あ)げると,そのまま夕暮(ゆうぐ)れの闇(やみ)へと姿(すがた)を消(け)していった.
参考書籍.
『ムー』(2008年8月号){<発行所>(株)学習研究社}(<目次名>未確認 飛行生物 UFC「スペース・キャタピラー」 <文>飛鳥 昭雄(あすか・あきお)+三神たける)参照.